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2020-04-20

永田收写真展『誰もいない展覧会 ~猫の眼~』(店舗は臨時休業中です)

永田收写真展『誰もいない展覧会 ~猫の眼~』

2020  4/18(土)~花森書林営業再開まで
会場:花森書林(店舗は臨時休業中です)

 

当店が臨時休業に入る少し前、写真家の永田收(ながた・おさむ)さんと互いの近況について話を交わしました。

永田さんは受け持っておられる写真教室や控えていた写真展などがすべて延期、中止となり、当店もまた当面の間店を閉めることを決断したばかりでした。先の見通しが分からない中で、互いに何かできることはあるだろうか、何ができるだろうと思案していましたが、同じ思いの永田さんの発案もあり、休業中の店内で永田さんの写真展を開催することに致しました。勿論、店舗は休業中なので、直接足を運ぶ人は誰もいない写真展です。

 

永田さんはそれを<エアーギャラリー>と笑って仰いました。

 

この写真展のテーマは「猫」です。永田さんが下町を散歩をしながら路地裏で出会った猫たちです。永田さんの人柄そのものである実直な写真に、自分も含め根強いファンが多いわけですが、この写真展が家から気軽にでることのできない沈んだ気持ちや、溢れかえる情報で疲れた心を少しでも軽くしてくれることを願って、ひっそりと開催いたします。

 


 

大変な事態である。心身、経済ともに毎日不安がつきまとう。

阪神淡路大震災後から路地裏の猫を意識的に撮るようになった。

野良猫たちは過酷な状況でも

強く、しなやかに、したたかに生き延びている。

彼らの放つ眼光のするどさとやわらかさに

度々力をもらってきた。

 

誰もいない臨時休業中の店内から発信する。

 

永田收


「しーちゃん」に似ている猫。 永田さん自身も猫を飼っておられたそうで、 知人の方に譲ってもらった子猫は「しーちゃん」と名付けられ25年もの間ともに暮らしました。  1996年に撮影した神戸・平野で撮影された上記の猫は、 後に出会うことになる「しーちゃん」にとても良く似ていて、永田さんにとっても思い入れの深い一枚だそう。

上記の猫は阪神淡路大震災後、神戸で撮影したとのこと、
昔の渋い俳優のような面持ちが印象的だっという。

「撮影する時、1mくらいまで近づけたら、よく近づいてきてくれたなと思う。大概、シャッターを向けて近づいたら逃げちゃう。その猫と自分との境界線を踏み込みすぎないよう、必ず声をかけながら、時に身振り手振りをくわえながら距離を縮めていく。」

大阪で撮影された路地裏の猫たち。 左は大阪・九条、右は大阪・平野にて。猫と人との距離の近さを感じる。 永田さん曰く、 「猫が幸せそうに生きている町がいい町だと思う」

「小さな子猫であったが、ちょっと野性的な構えをみせたのが記憶に残っている。猫の本能に触れる思いがした。」

上記の写真は詩人の玉川侑香さんがとても気に入ってくださり、主宰するミニコミ誌『SANPO・下町通信』にもこの猫のことで文章を寄せてくださった。

大阪・茶屋町、街が大きく変化する前に撮ったもの。 珍しく下町でない場所を撮影した。猫の鳴き声に誘われるかのように。

神戸・北野。 にぎやかな観光地から一歩、路地を入ると文化住宅や長屋が並ぶ場所もあった。それも今となっては見られない風景である。

奈良・大和高田にて。 この日、初めて行った場所で撮影がうまく進まなかった。 猫ちゃんが出てきてくれて歓迎してくれたことを私はとても喜んだ。

どこに猫がいるでしょう? その① 阪急淡路駅近くのトタン屋根の上にいた猫。

 

どこに猫がいるでしょう? その② よく見ると2匹。

 

どこに猫がいるでしょう? その③ 大阪・西成にて。洗濯物のワンピースの奥に。

どこに猫がいるでしょう? その④
実は拡大写真の猫以外にもう一匹いますが、見つかりましたか??

神戸市兵庫区、稲荷市場。 かつてあった魚屋の裏手にて撮影。路地裏風景が残っていた場所で個人的記録のため、足繁く通った場所である。

 


 

展示の最後に

 永田收さんのおはなしと今後の活動のこと

 

 

 

「町とともに猫を楽しんできました。

 

時に猫を被写体としながらも

これから残っているか分からない風景、下町を同時に記録し続けています。

 

 

自宅待機、外出自粛をせざるを得ない状況の中で

今回の<エアーギャラリー>とでもいうのか、

臨時休業中の古書店内で「誰もいない展覧会」を開催することにしましたが、

 

直接、写真を観ていただくことができない、

インターネットを通じてご高覧いただくということは

細やかな表現を伝えるという部分では本来難しいことだと思っています。

 

ただ、観てくださる方がより想像力を働かせ、

また直接観る以上に作品そのものや、その表現方法についてより知りたいという興味を持っていただけるならば、決してマイナス面ばかりでもないと信じています。

 

今回の展示はある意味「幻」の写真展でもあります。

 

現代美術のテーマとしてしばしば「空間」と「時間」というものが挙げられますが、

誰もいない空間で展示を行うことで、いつもと違う空気が流れ、

さらにそれをネットで公開することによって、

新しいコミュニケーションが生まれることに期待しています。

 

2020年4月18日 永田收


永田さんは1953年生まれ。
写真を勉強された後、1976年から足かけ8年世界を放浪されました。
きっかけは当時、愛読者の多かったという小田実『何でも見てやろう』や、冒険家、上温湯隆の著作なども後押しになったといいます。

タイ、マレーシア、インド、パキスタン、アフガニスタン、トルコ、エジプト、スーダン、ケニア、ルワンダ、ザイール、ナイジェリアなどアジアからアフリカを巡り、
その後ヨーロッパ各国で滞在。アメリカのNYとメキシコの山間部で長期滞在した後、帰国。
変容していく日本の町、特に下町を記録をし始めました。
主宰するミニコミ誌『SANPO・下町通信』も現在43号まで出ています。

今後の活動について、
60歳を過ぎてから体調面を含め、予期せぬことが起こっていますが、
日々を頑張っていきたい。一枚でも多くの写真を撮っていきたい。


永田 收(ながた・おさむ)

1953年 岡山県生まれ、神戸市在住。
写真家。
変わりゆく都市、下町をテーマに撮影を続け、
ミニコミ誌『SANPO・下町通信』を主宰している。
Facebook:OsamuNagata

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永田收さん発行の『SANPO・下町通信』(現在1号~43号+別冊など)は花森書林内でも取り扱いしています。一部250円より。

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