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2019-06-01

<『ノロウェイの黒牛』取り扱いはじめました> さとうゆうすけさんへのインタビュー 

 2019年3月、神戸の出版社BL出版より
世界のむかしばなしのシリーズの一作として
『ノロウェイの黒牛』が刊行されました。

2019年3月にBL出版から『ノロウェイの黒牛』が出版されました。文章はなかがわちひろさん、絵はさとうゆうすけさんです。さとうゆうすけさんは花森書林移転前の旧店舗でも何度も個展を開催いただいたご縁ある作家さんで、 この度の絵本『ノロウェイの黒牛』の完成をたくさんの方と喜び分かち合っています。
当店でも『ノロウェイの黒牛』を取り扱いさせていただくことになり、
それにあたって、今回、編集者の鈴木加奈子さんご協力のもと、さとうゆうすけさんへのインタビューをお願いいたしました。

絵本をすでにお持ちの方も、初めての方も絵本製作の舞台裏をじっくりお楽しみくださいませ。

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〇本書がさとうさんの絵本デビュー作となりますが、
これまでの活動から、絵本の制作のはじまりについて
改めてお伺いできたらと思います。

 

子供のから絵本や童話が好きで、自分でも作りたいとずっと思っていました。中学生の時に最初の絵本を作りました。それは北欧の昔話を題材にしたもので、その頃からやりたいことは変わっていないなと思います。絵本作家リスべス・ツヴェルガーの本を読んでこんな繊細な表現が絵本の世界にはあるのか、と憧れました。
独学で絵を描き続けていましたが、MOEに投稿を始め掲載されたことをきっかけに、絵本の出版を夢見るようになりました。また、描きためた作品を個展やグループ展で発表するようになりました。

グリム童話やアンデルセン童話などの昔話を題材に絵を描いていましたが、個展やグループ展で発表する機会をいただき、東京、名古屋、岐阜、京都、神戸などで展示してきました。
絵本を作りたい、昔話を作りたいと公言していたところ、展示を見てくださった編集者の方から、昔話絵本を作りましょうというお話をいただき、それが本作に繋がっていきました。

〇この物語を最初に読んだときの印象や感じた魅力を教えてください。

ノロウェイの黒牛は美女と野獣を思わせる物語です。しかし、王子の呪いが解けて、めでたしめでたしとハッピーエンドになるわけではなく、そこから主人公の娘の一人旅が始まります。この後半の展開が独特でまた現代に通じるテーマだと思い、この物語に惹かれました。

〇どのように絵のイメージをふくらめ、制作を進めていきましたか。

物語には惹かれましたが、牛が主人公になることには少し悩みました。かっこいい黒牛が描けたらこの物語を描いていけるのではないかと思い、黒牛のイメージ作りから始めました。
そこから娘や王子や魔女といったキャラクターのイメージを固めていきました。
描く場面については、物語を読んでおよそのイメージは頭の中にありましたが、ページの関係から全てを取り上げるわけにはいかなかったため、どこをカットし、どこを採用するか決めるのが難しく、試行錯誤しました。

今まで様々なタッチで絵を描いてきたため、どのような画材で表現した世界がこの絵本に合うのかにも頭を絞り、試作を繰り返しました。

〇昔話を絵にするときに、面白かったところ、難しかったところを教えてください。

昔話は表現がとても簡潔です。美しい場面も恐ろしい場面も摩訶不思議な場面も、あっさりと一言で語られます。読者はそれを頭の中で想像するわけですが、思い描く場面は人それぞれで、本当のところは誰にもわかりません。
しかし、実際に絵を描くとなると、1行の文章から、そこには何があって、どんな天候で、登場人物はどんな表情をしているのか、ひとつひとつを具体的に考えなければなりません。
物語の世界を細部にいたるまで想像し、一から創り上げていくことは、絵本を描く作業の一番おもしろいところであり、同時に一番難しいところでした。

〇特にお気に入りの場面があったら教えてください。

娘を背に乗せた黒牛が、荒れ模様の空を背景に草原を歩いていく絵は、お気に入りの場面に仕上がりました。だんだん崩れていく天候は二人の行く先の試練を現しているようです。
絵を描くとき、そこに具体的には描かれない、感情や感覚、空気や光を表現したいと思っています。この絵では、草原を吹き抜ける風とその冷たさをどこかに感じていただけたなら嬉しいです。

〇特に手強かった場面があったら教えてください。

今まで、動物を擬人化した絵を中心に描いてきたため、人物の表現には苦労しました。絵ごとに主人公の顔が変わってしまうのです。
また、黒牛は王子が呪いにかけられた姿なのですが、黒牛と王子が同じキャラクターなんだということを、その瞳で伝えたいと思っていました。
ベッドの中で耳を澄ます王子の瞳と悲しく優し気な黒牛の静かな瞳に、共通した何かを表現できないかと苦心しました。

〇1冊の造本としてどんなふうに感じられていますか。

反射を抑え少しざらついた紙の質感が、昔話の落ち着いた雰囲気にとても合っていると思います。また、タイトルや帯、見返しなどの色合いも物語のしっとりとした雰囲気を盛り上げています。
飾り罫は、表紙や見返しのイバラ模様やイギリスの古代ケルト紋様を意識して描きました。デザイナーさんによってクラシックな雰囲気に仕上げてもらえました。
チェコの絵本が好きで、あんな絵本を再現したいと思っていました。造本の力で憧れのクラシック絵本に近づいたのではないかと思います。

〇絵本の制作を通して、最初に物語を読んだときの印象と、なにか変わったところはありますか。

最初に物語を読んだときは、そのストーリーの展開や幻想的な場面に目を奪われました。 けれど、制作を続ける中、様々な話し合いから、物語の中に込められた文化的な背景も強く意識するようになりました。
ノロウェイの黒牛はなぜ口にするのも憚られる恐ろしい怪物なのか、ガラスの丘とは何なのか、なぜ娘は黒牛の王子と結ばれるのにこのような試練をくぐらなければならなかったのか。
昔話には忘れられた歴史が、その奥深くに脈々と受け継がれているのではないかと思います。物語を読み終わった後、なかがわさんの後書きから歴史的な想像を膨らませるのもまた、この物語の楽しみではないかと思います。

〇完成したこの絵本に対する想いを教えてください。

およそ3年の歳月をかけて完成させることができた絵本です。もっとよくできなかっただろうかという思いもありますが、全力でひとつひとつの場面を描き上げました。
そこに文章、デザイン、編集、出版社、印刷所といった方々の協力を得て、この絵本を完成させることができました。隅々までみんなのアイディアが詰まっています。
細かなところまで深読みして、子供から大人までそれぞれの楽しみ方で何度でも読んでほしいと思っています。

〇余談ですが… さとうさんの好きな時間いつでしょう。

どんな時間も好きですが、絵を描くことに関しては、夜が好きですね。静かで時間の変化を感じさせなくて集中できます。
ヨーロッパの昔話は暗く長い冬の夜に語り継がれてきたのではないかと想像しています。そんなところが自分の絵に合っているのかもしれないと思っています。

〇どんなふうに気分転換をされていますか。

絵を描くのに行き詰まるとワイヤー作品を作ります。できるだけシンプルに立体的にと考えていると頭の体操になるのかもしれません。
散歩も好きです。流れる雲や木や田んぼの葉を揺らす風、山の木々の間から立ち昇る霧は、想像力を掻き立て、絵本のどこかに使えないかと刺激になります。

〇絵本の中にも動物が登場していますが、好きな動物は?

猫を飼っているので、猫が好きです。飼い猫を絵本の中にも登場させてしまいました。探してみてください。犬やウサギも飼っていたので好きですね。
牛については日本人的な感覚なのか、黒牛と聞くと黒毛和牛を想像してしまいます。
今回の絵本制作にあたって、どうしたら主人公になるような、かっこいい黒牛を描くことができるかはひとつのポイントでした。
絵本に登場する黒牛の主なモデルは、ハイランドキャトルという現在もスコットランドで飼育されている毛がモサモサの角の長い牛です。
そこに、ヨーロッパバイソンなどの他の数種の牛の要素を掛け合わせて、今は絶滅した牛の祖先を自分なりに再現してみました。


さとう ゆうすけ

幼少期より絵が好きで、2006年より雑誌MOEへの投稿をはじめ、
2008年に初個展を開催。以後、名古屋、神戸、岐阜、東京、京
都等で個展やグループ展への作品制作を続け、繊細で美しい画風
が注目を集める。昔話やアンデルセン童話などをモチーフに作品
制作をしたり、木彫、針金、陶器などの立体作品も手掛けている。
本書は絵本デビュー作となる。

『ノロウェイの黒牛』
なかがわちひろ(文)さとうゆうすけ(絵)
BL出版 1600円+税

むすめと呪われた黒牛の恋
イギリス・スコットランドに伝わる
切なくも美しいむかしばなし
身の毛もよだつ怪物とされる黒牛と結婚してもいいというむすめ。
黒牛はむすめを背にのせ、果てしない旅に出ます。
くらい森をぬけ、さびしい荒れ野をこえ、そしてその途中、黒牛にかかった呪いを知ったむすめは…

 

 

 

 

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